質問より!新薬ってどれくらいでできるの?#570

Voicy更新しましたっ!
今回は頂いたコメントから、「新薬」についての詳しいお話

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通常は10年以上かかる「新薬の開発」

前回、メルク社が開発したcovid-19用の新薬「モルヌピラビル」について触れました。

そのコメントにて「コロナの治療薬はなぜそんなに早くできてしまうのか」と頂きました。

通常は9年から17年かかる、とされています。開発費は500億円ほども必要で、その成功率は0.03%ほどと、非常に狭き門であり、難易度が高い事なのです。

これは分かりやすく言うと、長い年月をかけて試行錯誤して3万個ほど物質を探したら、そのうちの一つに薬効が認められ、お薬となって実用化される、というレベルのことです。

極めて時間がかかる新薬の開発ですが、covid-19という新種のウイルスへのお薬が、確認からわずか2年足らずで開発、流通した現実があります。

今回はこの新薬の流れと、モルヌピラビルについて最新情報を踏まえて詳しくお話ししたいと思います。

最初の2,3年は物質を探す

新薬開発の始めの2,3年ほどは「物質を探す」ところから始めます。

例えばすでにあるお薬の成分や、漢方薬に入っているいる生薬やハーブをさらに分解して、お薬になりそうな物質を探して行きます。またもちろん、化学合成で人為的に物質を作るということもします。

どういうものがお薬になりそうか、ということをおよそ2年から3年かけて探し、考えていきます。

そのあと、3年から5年をかけて、その目ぼしい物質がどういう風に作用するのか、どう言う風に影響を与えるかを調べます。

例えば、胃の調子が良くなる漢方薬から一つの成分を取り出して、それが具体的に体のどこに、どのように効いているのかを調べたり、どれほどの量を飲んだら副作用が強くなるのか、毒性が出るのかといったことを調べます。

例えばわかりやすいものだと、試験管を使って中でどういう反応が起きるのかを見たり、動物を使った実験もここで行います。ほとんどの物質はこの時に脱落します。

つまり、ほとんどの物質が薬にはならず、探すのが難航していくのです。

もし効果が認められ、ある程度の安全性もあると判断された物質があれば、人間への試験になります。

いわゆる「治験」になります。

3段階の治験

以前のワクチンの回でも触れましたが、治験は大きく3段階に分かれます。

第一層、二層、三層の3つで、第一層は少数の健康な人間に新しいお薬を使ってもらいます。

体の中でどういう働きをするのか、どう吸収されていくのか、どれほどの時間体内にとどまるのか、どのように排出されるのか、そして危険はなく安全かどうか、等々基本的なことを調べます。

治験は人間に初めて使うということですので、リスクは全く無いとは言えません。

ちなみに、かなり昔ですが貼り紙で、治験バイトが募集されていて、3日間75万円という高額な募集も見たことあります。

金額はお薬の種類によっても変わる可能性があります。ビタミン剤や風邪薬程度の軽い物であればリスクが少なそうですが、抗がん剤のようなものだと、影響が大きい可能性があり、その分謝礼に反映されるのだと思われます。

その次の第二層試験で、実際にそのお薬の患者さんに対して使用します。

実際にその症状に効くのか、どれくらいの効果があるのか、期間はどれくらいか、副作用はどうかと言ったことを調べます。

第三層が患者さんの量、対象を拡大して行う治験で、数万人から数十万人という規模でわずかな副作用も見つけて行きます。

ここまで完了して最後に、およそ1年か2年ほどかけて、厚労省への承認申請をします。

承認されれば販売が開始され、流通していきます。

確認・流行から2年足らずで流通し始める「covid-19の新薬」

さて本題となるcovid-19用のお薬についてですが、前回触れたものや、これから予定されている新薬も、実はもともと他のもののお薬として開発、流通されていた、と言う経緯があります。

前回触れたモルヌピラビルはもともとはインフルエンザのお薬として数年前から開発されていました。

また、ワクチンで知られるファイザー社のパクスロビトというお薬が予定されています。

これはHIVウイルスへのリトナビルというお薬と、体内でそのリトナビルが分解されづらくなるお薬とを一緒に使うと、covid-19に効果があることが分かり、開発が進みました。

この二つはどちらもいわゆる「転用」で、一番最初の物質を探す期間が大幅に短縮された、ということなのです。

さらにその上、covid-19が日本も含めて世界的に流通して、患者さんが極めて多いため、治験もスムーズに進んだのも大きな一因です。

日本でも塩野義製薬が新薬開発の最中ですが、患者さんの数が世界に比べて少なく、海外ほど大規模なデータがとれず治験が難航している現状があります。

アメリカでは患者さんが多い上に、緊急使用許可という制度があります。

効果がしっかりとあってこれ以外に代わりのお薬が無く、使ったときのメリットがデメリットを上回るなどいくつかの基準がクリアできれば緊急的に素早く流通させることが可能なのです。

日本では特例承認と言い、ワクチンの時に行われましたが、日本の場合では患者さんに何か不調があったら、全て報告することが義務付けられています。

お薬やワクチンを使った方全員を対象に、何かの不調があればすぐに厚労省に報告してデータを集め、最終的にこのお薬のせいなのかどうかを検証して調べる、ということをします。

感染力が高いウイルスですので、急を要する事態ではありますが、安全性が無ければ非常に危険です。ワクチンも新薬も同じく難しい問題ですが、開発は着実に進んでいることは確かです。引き続き、感染対策を徹底していきましょう。

この記事を書いた人

吉田 聡

吉田 聡

薬局・なくすりーな薬局長
公益社団法人日本薬剤師会、公益社団法人東京都薬剤師会、所属